終章

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……昔、あえかなる見目麗しき姫ありけり。  そのお姿一目見ゆれば、たちどころに心穏やかに、気が(みなぎ)ると云ふ…… 人々はこう言い伝えた。 『姫の白き肌は透き通るように美しく、黒々と艶やかなる長き髪は、水すだれ《滝の意》のように清らかに流るる。その御髪にはいつも、紫色の桔梗の花が黄金色(こがねいろ)の絹の蝶結びで飾られていた。  丹花の唇は露に濡れた(くれない)の蕾。それはしっとりと(なま)めき、野苺のように食欲をそそる。  そしてその瞳は大きく、子猫のように黒目がちで、黒水晶のように深く澄み、さながら夜の泉。水面(みなも)に映る月を(たた)えたかのように静謐(せいひつ)なる 清らかな光を宿していた。  お声はある時は鈴の音のように高く澄み、ある時は琴の調べのように高過ぎず低過ぎず。不思議な魅力に溢れていた。お話される度に大地に花が咲く。  姫の紡ぎ出す物語はとても興味深く、ある時は教訓を、ある時は楽しみを、またある時は涙を誘った』 と。  そして姫の傍らにはいつも、 天上人のように美しい男が守るようにして寄り添っていた。  いつの頃からか、誰が詠んだのかは不明であるが、このような和歌が今も尚 残っている。 「ちはやぶる 神の光や 傾国は 玄武の妻なり 光輝燦爛(こうきさんらん)」 ~読み人知らず~ (※口語訳※ いやはや、神の光だね、あの美姫(傾国)は。聖獣玄武の妻だよ。 光を放つ程に華やかで美しい)  そして後に996年から1005年の間は裏歴史として「幻の時代・桃源郷」と 呼ばれるようになり、ひっそりと歴史からその姿を消した。  表向きの歴史は、優れた女流作家たちが華々しく活躍した時代であり、今も尚、 優れた作品として残っている。  わたくし、皇美言(すめらぎみこと)は、玄武上皇と千愛の子供求道の末裔。 因みに、二人目は女の子で(まこと)の愛と書いて真愛(まな)と名付けられ、 求道の通り名は久尚『ひさなお』。真愛の通り名は「桔梗」と呼ばれた。  かの桔梗の花の髪飾りは、代々伝わる皇一族の『家宝』として受け継がれている。 同時に語りつがれて来た伝説の『傾国の華』を、ここに記す。 2017年11月末 皇美言(すめらぎみこと) ~完~image=508264997.jpg
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