1199人が本棚に入れています
本棚に追加
「千愛はっ?!」
血相を変えて部屋に飛び込む帝。仕事を途中で投げ出して来た事が見てとれる。
「お静かに」
ましろは静かに、されど厳しい声を発した。千愛は寝床で横になって眠っている。
その顔色は、青白い。先ほど、目眩で倒れてしまったのだ。ましろがすぐに支えて、
どこも怪我は無い。
「千愛様に、新しい命が授かりました」
ましろは厳かに切り出した。呆然と佇む帝。
「……えっ……今、何と?」
喘ぐように帝は呟く。あくまで冷静なましろ。
「いいですか! よくお聞き下さい。これから手筈がある筈です。帝、落ち着いて!
千愛様は、ご懐妊なされました」
……命? 懐妊? て何だ?……まさか! 俺の……
「お、俺の……俺と千愛の、子が……」
帝は徐々に状況を呑み込み、全身で喜びを噛みしめる。
「千愛、よくやったぞ」
と囁くように言うと、静かに千愛の元に近づいた。そっと跪き、彼女の左手
を取る。そして愛し気に頬ずりをすると、白く透き通るようなか細い手の甲に
口づけをした。しばらくそうしていると、丁寧に千愛の手をおろし、すっくと
立ちあがる。そしてましろを振り返った。
その瞳は静かに燃える炎を宿し、射抜くように強い光を放つ。
「桔梗の花が、咲き始めたな。ましろ、時が満ちた! 今から速やかに計画を実行
する。千愛を頼む」
「承知致しました」
と指示を出すと、素早く部屋を辞した。ましろは帝を見送ると、予め用意して
あった荷物を手元にまとめ始めた。
「遼、朝信!」
部屋を出るなり、二人の名を呼ぶ。すぐに天井より舞い降り、跪く二人。
「時が満ちた!」
帝は開口一番そう告げた、二人は驚いて顔を上げる。そして徐々に喜びの笑みを
浮かべ、帝を見つめた。朝信も少しずつ笑顔が自然体になってきている。
「今より兼ねてから計画していた『幕引き計画』を開始する。右戸、
左来と共に今からすぐに実行に入れ! 俺は今から道長の元へ行き、
その後すぐに千愛と合流する。御息所達の誘導はお前たちに全て任せた!」
と命じた。
「御意!」
二人は同時に答えると、帝に深々と頭を下げ、再び天井に舞い上がった。
最初のコメントを投稿しよう!