終章

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「千愛はっ?!」  血相を変えて部屋に飛び込む帝。仕事を途中で投げ出して来た事が見てとれる。 「お静かに」  ましろは静かに、されど厳しい声を発した。千愛は寝床で横になって眠っている。 その顔色は、青白い。先ほど、目眩で倒れてしまったのだ。ましろがすぐに支えて、 どこも怪我は無い。 「千愛様に、新しい命が授かりました」  ましろは厳かに切り出した。呆然と佇む帝。 「……えっ……今、何と?」  喘ぐように帝は呟く。あくまで冷静なましろ。 「いいですか! よくお聞き下さい。これから手筈がある筈です。帝、落ち着いて! 千愛様は、ご懐妊なされました」 ……命? 懐妊? て何だ?……まさか! 俺の…… 「お、俺の……俺と千愛の、子が……」  帝は徐々に状況を呑み込み、全身で喜びを噛みしめる。 「千愛、よくやったぞ」  と囁くように言うと、静かに千愛の元に近づいた。そっと跪き、彼女の左手 を取る。そして愛し気に頬ずりをすると、白く透き通るようなか細い手の甲に 口づけをした。しばらくそうしていると、丁寧に千愛の手をおろし、すっくと 立ちあがる。そしてましろを振り返った。  その瞳は静かに燃える炎を宿し、射抜くように強い光を放つ。 「桔梗の花が、咲き始めたな。ましろ、時が満ちた! 今から速やかに計画を実行 する。千愛を頼む」 「承知致しました」  と指示を出すと、素早く部屋を辞した。ましろは帝を見送ると、予め用意して あった荷物を手元にまとめ始めた。 「遼、朝信!」  部屋を出るなり、二人の名を呼ぶ。すぐに天井より舞い降り、跪く二人。 「時が満ちた!」  帝は開口一番そう告げた、二人は驚いて顔を上げる。そして徐々に喜びの笑みを 浮かべ、帝を見つめた。朝信も少しずつ笑顔が自然体になってきている。 「今より兼ねてから計画していた『幕引き計画』を開始する。右戸(うと)左来(さこ)と共に今からすぐに実行に入れ! 俺は今から道長の元へ行き、 その後すぐに千愛と合流する。御息所達の誘導はお前たちに全て任せた!」  と命じた。 「御意!」  二人は同時に答えると、帝に深々と頭を下げ、再び天井に舞い上がった。
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