甘美な視線

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「そう聞くと、強引な薫に俺が流されたみたいに感じるかもしれないが、決めたのは俺だ。多くの素晴らしい絵に出合い、本気で絵を描いてみたいと思うようになったんだよ」 優しく微笑む零士先生の目が少年のようにキラキラ輝いていて、絵に対する情熱がヒシヒシと伝わってくる。 「薫は俺の描く絵を見て『こんな斬新な絵を描くんだから、零士君には間違いなく絵の才能があるよ』と言ってくれた。その時、ハッとしたんだ。俺の母親は親父と結婚するまで画家をしていたからな」 あ……それって、Arielのことだよね。 「でも俺は、母親が絵を描いている姿も、母親が描いた絵も見たことがなかった」 「えっ? どうして?」 「親父は古い人間で、母親が絵に熱中して家事や育児をおろそかにするのが許せなかったそうだ。女は結婚したら家庭を守り夫を支える。それが妻の役目だと今でも言っているからな。時代遅れの化石みたいな男だよ」 零士先生が絵を描くようになって彼のお母さん、つまりArielはとても喜び、彼女も家事の合間に少しずつ絵を描くようになった。でもそれは、あくまでも趣味として。 でも、たまたま画家の友人に誘われ合同の個展を開くとそれが美術雑誌に取り上げられ、お母さんの絵の評価が上がっていった。嬉しくなったお母さんは本格的に創作活動を開始し、寝る間も惜しんで絵を描いていたそうだ。 しかしそんなお母さんを快く思っていなかった社長と衝突するようになり、喧嘩が耐えなくなった。 「それから暫くして、母親は家を出て行った……」
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