天然記念物級の女

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お酒好きの館長は毎晩のように酔い潰れ、午前中は二日酔いで使い物にならないのだ。孫が孫ならじいさんもじいさんだ。 「あ、もうこんな時間……館長、私、Aギャラリーの搬入が済んだか確認しに行ってきますから、電話があったらちゃんと出て下さいよ!」 ギャラリーのオープンは午前十一時。作品の搬入はそれまでに済ませてもらわなきゃいけない。 「それと、西島先生に電話するの忘れないで下さいね」 西島先生は、日本はもとより、海外でも有名な画家の先生だ。本来なら、名の知れた美術館で個展を開いてもおかしくない巨匠なのに、新作の発表は必ずこの矢城ギャラリーでと言ってくれる超ビックなお得意様だ。 いや、西島先生だけじゃない。名だたる有名な画家の先生が矢城ギャラリーを利用してくれている。その先生達が口を揃えて言うのは"恩返し"。売れない時代に矢城ギャラリーにお世話になったからだということらしい。 他のギャラリーや貸し画廊の料金は一日、四万円前後が相場で、展示期間は五日から六日というのが普通だ。そうなるとギリギリの生活をしている新人画家には痛い出費。とてもポンと払える金額じゃない。 本来、矢城ギャラリーも、一日、四万円の賃料になっているが、館長の意向で新人画家は一日、一万円という破格の金額で貸している。時にはもっと安い時もあったりするし……それに、展示作品が売れた時、売価の30%くらいは請求できるのに、それもしない。 その代わりと言ってはなんだが、売れて収入がある有名作家の先生達には法外な賃料を吹っ掛けてプラマイゼロにしている。有名作家の先生達はそれを分かっていて利用してくれているんだ。
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