天然記念物級の女

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昔、売れない時代にお世話になった恩返しとこれから世に出るであろう多くの若い才能の為に。 ギャラリーや画廊が乱立する銀座の激戦区で消えていく店舗も多い中、立地条件が悪く、建物も古い矢城ギャラリーが潰れずに五十年以上も生き残ってこれたのは、若い新人作家を大切にしてきたから。 グータラで仕事をしない館長だけど、そこだけは凄く尊敬している。 今回、個展を開くのも美大を出たばかりの新人画家だ。ギャラリーを覗くと既に搬入は終わっていて、若い男性が壁に掛かったカラフルな絵画を満足気に眺めいてる。 「お疲れ様です。展示は明日からですが、もう殆ど終わってますね」 「あ、今回はお世話なります」 緊張気味に頭を下げているのは、新太さんの大学の後輩、遠藤(えんどう)輝樹(てるき)さんだ。新太さんの紹介で初めて矢城ギャラリーで個展を開くことになった。 「新太先輩が矢城ギャラリーには親切な宇都宮(うつのみや)希穂(きほ)さんって女性が居るって言ってましたけど、それって、あなたのことですよね?」 「え、えぇ……私が宇都宮です。何か分からないことがありましたら一階の事務所に居ますので、遠慮なく声を掛けて下さい」 どうやら新太さんは遠藤さんに私を彼女だとは言ってないようだ。だから私もあえてそのことには触れず、注意事項を説明して事務所に戻った。 すると環ちゃんが椅子からずり落ちた館長の体を揺すり、半泣きで叫んでいる。 「おじいちゃん、しっかりして!」
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