天然記念物級の女

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「環ちゃん、どうしたの?」 慌ててふたりに駆け寄ると環ちゃんが真っ青な顔でしがみ付いてきた。 「おじいちゃんが……おじいちゃんが急に意識を失って……希穂ちゃん、どうしよう」 泣きじゃくる環ちゃんと吐血した館長を見て私もパニックになりかけたが、ここは私がしっかりしなくてはと思い直し、受話器に手を伸ばす。 「環ちゃんはお母さんに連絡して。私は救急車を呼ぶから」 環ちゃんのお母さんの(かおる)さんは館長の娘。ここから歩いて十分ほどの画材屋さんで働いている。間もなく救急車が到着し、ギリギリ間に合った薫さんと環ちゃんが付き添って病院に向かった。 ひとり残された私は呆然と立ち竦み、遠ざかっていくサイレンの音を聞いていたんだけど、後ろから「何かあったんですか?」と声を掛けられ我に返る。 振り返れば、さっきの新人画家の遠藤さんと個展を開いている別の画家さんやスタッフの方が戸惑いの表情で私を見つめていた。どうやら救急車のサイレンの音に驚き、様子を見に外に出て来たようだ。 「今運ばれて行ったのは、館長さんですよね?」 不安そうなスタッフの方達の顔を見て、私は館長の口癖を思い出す。 "画家や作家の先生方は、何ヶ月も血の滲むような思いをして一つ作品を完成させている。だから、こちらも真剣に取り組まないといけないよ" あっ、そうだ。個展を開いている皆さんに迷惑掛けちゃいけない。
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