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しかし薫さんは諦めない。そのしつこさに根負けした零士先生が横目で私をチラリと見て言ってしまったんだ……
「そこに居る宇都宮希穂だよ」
「えっ……」
その瞬間、なんとも言えない空気が流れ、私は天を仰ぎ、薫さんは絶句。無言で傍観していた飯島さんは満足げに薄ら笑いを浮かべていた。そして零士先生はというと、素知らぬ顔でコーヒーを飲んでいる。
「希穂ちゃんが……零士の彼女?」
薫さんが発したこの一言が、彼女の心の乱れを如実に表していた。
零士先生とは幼馴染みなのに私の前では決して下の名前で呼ぶことはなかったもの。"零士"と呼び捨てにしたことに気付かないくらい薫さんは動揺していたんだ。
「ホントに希穂ちゃんと付き合ってるの?」
零士先生がなんの躊躇いもなく頷いても、まだ信じられないって感じで疑いの視線を向ける。
「本気……なの?」
「本気だから宇都宮を桔平の店に連れてったんだ」
その言葉でようやく納得したのか「……分かった」と呟き、大きく息を吐いた。
薫さん、凄く動揺してる。やっぱりショックだったんだ。それに、相手が私だったってことが更にショックを大きくしてしまったのかもしれない。
そんなことを考えると申し訳なくて、薫さんと目を合わせられないでいた。すると突然立ち上がった薫さんが「希穂ちゃん、ランチに行こう」と私の腕を引っ張る。
「えっ……」
「お腹空いてるんでしょ? ほら、行くわよ」
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