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でもまさか、零士先生が選んだ相手が私だとは思ってもいなかったから聞いた時は戸惑ったけど、今はよく知っている私で良かったと微笑む。
その笑顔に陰りはなく、決して強がっているようには見えなかった。
薫さんは嫉妬していたんじゃなかったんだ。単純に女嫌いな零士先生に彼女ができて、それが私だったということに驚いていただけ……
ようやく納得し、運ばれてきたパスタを前にフォークを手にすると、同じくフォークを持った薫さんが「あっ」と小さな声を上げる。
「そうそう、父さんがね、希穂ちゃんが全然連絡くれないって拗ねてたわよ。父さんは孫の環と同じくらい希穂ちゃんが可愛いの。だからたまには遊びに来て話し相手になってあげて」
あぁ……言われてみれば、館長が退院してから一度も会ってない。色々あったから館長のことまで頭が回らなくて……悪いことしたな。
苦笑いして頷くと、薫さんに今日の仕事終わりに家に来ないかと誘われた。
「零士がね、例の裸婦画を購入してくれたクライアントと食事に行くことなってるの。だから今日は珍しく定時で帰れそうなのよ。どう?」
「えっ、でも、クライアントとの食事会だったら、常務秘書の薫さんも行かなきゃいけないんじゃ……」
「まぁね、以前はそうだったんだけど、今は病気の父さんも居るし、時間外の接待には同行しなくていいって零士が言ってくれて。だから大丈夫よ」
そういうことか。零士先生が接待なら今日のモデルはお休みだろうし、丁度いい、館長の顔を見に行こうかな……
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