天然記念物級の女

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「大丈夫です。少し気分が悪くなっただけですから。それより、そろそろオープンの時間ですね」 精一杯の笑顔でそう言ったけど、事務所に戻ると最悪な事態が頭を掠め不安で胸が押し潰されそうになる。 館長がいつも座っているガスストーブの横の椅子に座り、必死で手を合わせた。 館長にもしものことがあったらどうしよう。お願い。館長、無事に戻ってきて……うぅん、戻って来てもらわないと困る。館長が居なくなったら矢城ギャラリーはどうなるの? 今にも泣き出しそうになりながら環ちゃんからの連絡を待っているとドアをノックする音が聞こえた。 「あのぉ~ちょっといいですか?」 顔を覗かせたのは、遠藤さん。ホットの缶コーヒーを遠慮気味に私の手に握らせ眉を下げる。 「心配ですね。館長さん」 「え、えぇ、でも、きっと大丈夫です。ああ見えて結構しぶといとこありますから。じゃあ、コーヒー頂きますね」 カラカラに乾いた喉に熱くほろ苦いコーヒーを流し込むと少し気持ちが落ち着いてきた。 彼は私と同い年の二十三歳だそうで、まだまだ駆け出しの画家。この若さで個展を開くなんて恐れ多いと思っていたけど、新太さんに強く勧められ、バイトを掛け持ちして賃料を貯めたそうだ。 「銀座でこんなリーズナブルなギャラリーありませんからね。新太先輩もここで個展を開いてから運が向いてきたって言ってましたし、僕もそうなったらいいなぁって思って……」
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