誘惑のワケ

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――数日後 それから私と零士先生は、他の社員に気付かれないように会社ではなるべく関わらないようにしていたんだけど、それは思っていた以上に辛く、忍耐力が必要な苦行のようなモノだった。 だって、気か緩んでいるところに不意に彼が現れると無意識にその背中を目で追ってしまうんだもの。 ハッとして慌てて広い背中なら目を逸らすも、零士先生の残像が私の心臓を高鳴らせ、愛しさで胸が熱くなる。そんな私を茶化すのは、唯一、零士先生との関係を知っている飯島さんだ。 「あら? 宇都宮さんと常務、恋人同士なのに目も合わせないのね」 「わわっ! 飯島さん、シーッです!」 人差し指を唇の前に立て取り乱す私を飯島さんが面白そうに見つめている。 「私と常務が付き合ってるってことは、飯島さんと薫さん以外誰も知らないんです。だから、他の社員には秘密ってことでお願いします」 「ふーん、秘密なの? 私が宇都宮さんなら自分から言いふらしちゃうけど」 そりゃ~私もオープンにできればいいなって思うけど、薫さんとの約束もあるし、何より、私のせいで零士先生に迷惑が掛かるのだけは避けたい。 「でも、矢城さんは常務のことが好きなんだと思っていたのに……なんか意外だったな……」 一応、薫さんの名誉の為に、飯島さんには薫さんの本心を伝えたのだけど、未だに納得できていないようだ。 「……じゃあ、あの噂はガセってことか……」 「噂?」 「あ、うぅん、他の社員達も常務と矢城さんが幼馴染みって知ってるから、色々勘ぐって噂してたのよ。ゴシップ好きな人はどこにでもいるから気にすることないわ」
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