誘惑のワケ

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気にするも何も、その噂の内容が分からないからなんとも言えない。 「飯島さん、その噂ってどういう……」そう言い掛けた時、階段を駆け上がってくる足音と私の名前を呼ぶ声が聞こえた。 「あ、環ちゃん……」 「ここのタルト美味しかったから、また来ちゃった~」 テンション高くショーケースの中を覗き込んでいる環ちゃんだけど、こんな時間にここに来るってことは、また学校をサボったんだ。でも、あまりクドく言い過ぎるのもどうかと思い、言葉をグッと飲み込む。 するとそこに、零士先生が若い男性社員を連れて戻ってきた。男性社員が持っているのは、先日のオークションで競り落とした静物の絵画。新たにギャラリーに展示する絵だ。 「あっ! 常務さんだ~」 環ちゃんの大声に零士先生が振り返り、笑顔で近付いてくる。 「よう、環。こんな時間にどうした? 学校は?」 零士先生は私が気を使って言わなかった台詞をズバッと言ってくれる。だから、いつものようにブチ切れる環ちゃんを想像したのだけど、予想に反して超ご機嫌だ。 「学校は創立記念日で休み」 はぁ? 創立記念日? 確か半年前にも私に同じこと言ってたよね。環ちゃんの高校って一年に何回創立記念日があるのよ! って心の中でツッコミを入れるが、零士先生はコロッと騙され納得している。 「それより、今日は常務さんにお願いがあって……」 珍しく神妙な顔した環ちゃんが辺りを見渡し「ママは?」と薫さんの姿を捜していたが、外出中だと分かると安心したように微笑み、甘えるように零士先生にすり寄り始めた。
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