誘惑のワケ

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「私もね、ずっと半信半疑だったけど、さっきの常務の様子を見て確信したわ。やっぱりあの娘は常務の子供よ。じゃなきゃ、あんな無謀なお願い断るはずでしょ? 本当の娘だから父親役を引き受けたのよ」 「あ……」 飯島さんの言葉に反論できず唇を噛む。でも私は零士先生を信じたかった。 そんな話しは嘘だ――そう言って欲しくて彼の居るギャラリーの方に視線を向けるが、もうそこに彼の姿はなかった。 今すぐにでも常務室に突撃して真相を確かめたかったけど、仕事中だからと自分を諫め資料を握り締める。 仕事が終われば、矢城ギャラリーで零士先生に会える。それまで我慢だ。 必死で気持ちを落ち着かせようとしているのに、飯島さんは構わず大胆な持論を展開し始める。 「宇都宮さん言ってたわよね。常務と矢城さんは友人として互いを強く思いやっているって。それは私もその通りだと思うわ。でも、もしもよ。ほんの一瞬、何かのはずみでその思いが違う感情に変わってふたりがそれを受け入れたしとたら?」 「違う感情……」 「そう、友達同士だと思っていたふたりが一夜の過ち的な展開でそういう関係になってしまうってことだってあるわ。その後、ふたりは何事もなかったように友人に戻ったけど、矢城さんが妊娠してしまって……てね」 飯島のさんの言いたいことは分かるけど、それは少々飛躍し過ぎている。 「飯島さん、それ、ちょっと強引過ぎません?」
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