誘惑のワケ

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暫くの間、沈黙が続き、重苦しい空気が流れた。そして大きく息を吐いた零士先生が発した言葉は「バカなヤツ……」だった。 「そんな噂に惑わされるってことは、まだ俺を信じていない証拠だな」 「あぁ……それは……」 「俺が環の父親として学校に行くと言ったから、そんな噂を信じたんだろ?」 戸惑いながら小さく頷くと零士先生が立ったまま私の頭を引き寄せ、囁くような小さい声言う。 「環がなぜ、不登校になったか知ってるか?」 言われてみれば、私は環ちゃんの不登校の理由を知らない。ただサボっているだけだと思っていたから理由なんて聞いたことなかった。 「環はな、高校に入ってすぐ、中学からずっと仲が良かった友人達が自分の父親の話しをしているのを偶然聞いちまったんだよ」 環ちゃんは彼女達のことを親友だと思っていた。でも、彼女達は違っていたんだ。 「環が父親の話しをしたがらないのは、父親が犯罪者だから……そう勝手に決めつけて盛り上がっていたらしい」 「えっ、そんな……酷い」 「あぁ、酷い話しだ。友人達は環を犯罪者の娘だから本当は関わりたくないが、環が絡んでくるから仕方なく付き合っている……そんなことを言ってたそうだ」 「あぁぁ……」 環ちゃんが友達にそんなこと言われていたなんて……なのに私は顔を合わせば学校に行けと説教してた。 「半年ほど前にその話しを聞いていたが、俺にしてやれることは何もなくて辛かったよ。でもな、やっと環の力になれる時がきたんだ。だから俺は父親役を引き受けた。 環の父親として堂々と学校に行き、父親として担任と話しをする。俺が環の為にしてやれることはそのくらいだからな」
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