誘惑のワケ

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「あ……ウエディングドレス……だけど」 最悪の返答に輝樹君の顔が引きつり、口元がヒクヒクと軽く痙攣している。そんな状態でお互い言葉もなく見つめ合っていると電話を終えた環ちゃんが戻ってきた。 「んっ? ふたりとも間の抜けた顔してどうしたの?」 「う、うぅん、なんでもない……」 そうは言ったものの動揺はハンパなく、おまけに輝樹君の憐れむような視線が痛くて大好きなポモドーロが運ばれてきても手を付けることができなかった。 マンションに帰ってからもそのことが頭から離れず、どんどん落ち込んでいく。とうとう我慢できなくなり、既に日付が変わろうとしたいたが零士先生に電話を掛けてしまった。 『こんな時間にどうした?』 少し驚いた声が耳に響く。その声を聞いた瞬間、電話を掛けたことを激しく後悔した。 彼に何を聞くつもり? モデルが終わったら私は捨てられるの?……なんて聞けるワケないじゃない。 だから何も言えず口籠っていると零士先生が『なんだ? 俺と会えなくて寂しかったのか?』って言うから、本当に寂しくなってきて、つい「うん」と返事をしてしまった。 『希穂がそんな甘えん坊とは知らなかったな』 「ごめんなさい……」 『別に謝ることはないさ。甘えん坊の希穂も可愛いよ』 零士先生……それ、本気で言ってるの? 輝樹君の言葉が私を疑い深くしていて素直に喜べない。すると零士先生が、今度の休日に一緒に行って欲しい所があると言う。 あ……休みの日に誘われるの初めてだ。
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