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『予約が取れないのでしたら仕方ありませんね。スケジュールを変えるワケにはいきませんし、今回はご縁がなかったということで、本人にそう伝えます』
「ちょっ、ちょっと待って下さい!」
『はい?』
「ご、ご予約取らせて頂きます! ご希望の日にちを教えて下さい」
渡辺と名乗った女性が指定してきたのは、半年後の五月の第一週。全館貸し切りでということだった。
「承知致しました」
『では、一ヶ月後にまたお電話させて頂きますので、その時に賃料など、諸々ご相談させて下さい』
「はいっ! 有難う御座いました」
受話器を置き、暫し放心状態。そんな私の顔を遠藤さんが覗き込んでくる。
「さっきの電話で予約は取らないって言ってませんでした? 良かったんですか?」
「なっ、何言ってんのよ! Arielだよ? 世界のArielがこの矢城ギャラリーで個展を開きたいって言ってきたのに、断るなんて出来ないでしょ?」
興奮した私は遠藤さんにもタメ口だ。
「えぇっ! あのArielですか?」
「そう! あのArielよ」
「うわっ! スゲ~! 僕、個展の日は絶対に来ます。本人も来るんでしょうかねぇ?」
「ほ、本人? ……そうだよね。その可能性あるよね」
ベールに包まれた謎の画家、Arielに会えるかもしれないと思うともうそれだけで舞い上がってしまった。それは遠藤さんも同じだったようで、Ariel談義で盛り上がり話しは尽きない。
意気投合した私達はいつしかお互いを下の名前で呼び合い、何気に仲良しこよし。というワケで申し訳ないけど、館長のことは頭の中から綺麗さっぱり消えていた。
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