あなたの傍に居たくて……

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思わず足を止め、壁からソロリと顔を覗かせてみれば、トイレの前の廊下で零士先生と桔平さん、そして桔平さんの妹の愛花さんが深刻そうな顔で向き合っていた。 そのただならぬ様子に息を呑み耳を澄ませると、今度は桔平さんの低い声が聞こえてくる。 「――薫のことなんだが……アイツ、最近よく店に来ていたんだけどな、なんだか様子がおかしいんだよ。来るたびに泥酔して泣いたり怒ったり……情緒不安定って感じだ」 「薫が?」 気怠そうに壁にもたれ掛かったいた零士先生が驚いて壁から背中を離し、前屈みになる。その姿を見つめながら、私は環ちゃんが言ってたことを思い出していた。 薫さんの異変を感じていたのは環ちゃんだけじゃなかったんだ。てことは、やっぱり薫さんは何か悩みごとを抱えている? 再び三人の方に視線を向けると困惑した表情の桔平さんが再び口を開く。 「酔っぱらうと必ず『信じてたのに』とか『ずっと待ってた私がバカだった』とか、大声で叫んで手が付けられなくなる。あれは相当参ってるぞ」 ずっと待ってた? なんだか心の中がザワ付き、凄くいやな予感がした。 「薫のヤツ、そんなこと言ってたのか……」 「あぁ、零士なら、その意味分かるよな?」 桔平さんから投げ掛けられた質問に零士先生はすぐには答えなず、再び壁にもたれ掛かり、煙草に火を点け、白い煙を吐き出してやっと「あぁ……」と返事をした。 どういうこと? 薫さんの情緒不安定が零士先生と何か関係があるの?
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