2801人が本棚に入れています
本棚に追加
……環ちゃんは零士先生を慕っているのに、彼が父親だということを知らない。知らせたくないない何かがあるから、零士先生と薫さんは他人でいることを選んだのかも。
そして社長に反対されているのも原因のひとつだろう。反対されたまま結婚しても環ちゃんを幸にできないと思ったのかもしれない。それに、社長の機嫌を損ねれば、零士先生の春華堂社長就任という話しも消える可能性がある。
そんなこと零士先生を社長にしたいと願っている薫さんが納得するはずがない。様々な事情が入り混じり、まだ好き同士だったにも拘らず、ふたりは別々の道を歩む決心をした――
そう考えれば、ふたりが恋愛関係を否定したのも納得できるし、零士先生が今まで誰とも付き合わなかったのも、私と零士先生が付き合ったことを知った薫さんが情緒不安定になったのも全て説明がつく。
あ、いや、前にも少しそんな気がしたけど、ふたりは納得して別れたのではなく、薫さんから一方的に別れを切り出したんじゃ……だから零士先生は諦めるしかなかった……桔平さんとの会話もそんな感じだったし。
だったら私の存在っ価値って? 薫さんへの想いを隠す為のカモフラージュ?
そう思うと辛くて苦しくて、堪らずスマホを取り出しメッセージアプリを開いていた。
《人酔いして気分が悪いので先に帰ります》
送信したのと同時にライブハウスを飛び出し、縺れる足で急な階段を駆け下りる。そして大通りに出てタクシーを拾ったところで零士先生から電話が掛かってきた。
何度も深呼吸をし、気持ちを落ち着かせて電話に出ると零士先生の焦った声がする。
『どうした? 気分が悪いって……大丈夫か?』
彼の声を聞いてしまうと冷静ではいられない。
最初のコメントを投稿しよう!