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焦った私は仕事が終わると館長が入院している病院に向かった。館長の病室は四人部屋。同室の患者さんに迷惑にならないように声を潜めてArielのことを話す。
「Arielがウチのギャラリーで新作の個展を?」
「そうなんですよ。こんなことになるなんて思ってなかったから、予約を受けてしまって……」
「そうか、あのArielが……いつか有名になったら、ウチのギャラリーで個展を開くと約束したのを覚えてくれていたんだなぁ~」
「えっ?」
私は自分の耳を疑った。
この飲んだくれのじいさん、いったい何者なの?
「か、館長、Arielを知ってるの?」
「うむ、十年ほど前だったかなぁ~フランスの美術館周りをしたことがあってな。その時、まだ無名だったArielに会ったんだよ。絵を続けるか迷っていると言うから、絵が好きなら続けろと言ったんだ。
ワシは日本でギャラリーをやってるから、いつでも個展を開いてやるって励ますと絵で飯が食えるようになったら必ずお願いすると言って笑っていたよ。で、それから数年後にフランスの絵画展で最優秀賞を受賞して。あの時は嬉しかったなぁ~」
遠い目をして白い顎ヒゲを擦る館長に、どうして今までそのことを教えてくれなかったんだと迫ると「すっかり忘れてた」って、あっけらかんと笑っている。
「でも、半年後には矢城ギャラリーは閉館してるしなぁ……Arielには悪いが断るか」
「ちょ、ちょっと待ってよ。館長、落ち着いてよーく考えて。Arielが日本で個展を開くのは初めてなのよ。せめて半年、なんとかならないの?」
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