運命のイタズラ

9/22

2791人が本棚に入れています
本棚に追加
/237ページ
ここまで来てしまったんだ。もう開き直るしかないか……館長には言うなと言われたけど、それを言わなきゃ話しが進まない。 二人に事情を話し、どうしてもArielの個展を開きたいので、それまで矢城ギャラリーの引き渡しを待って欲しいとお願いした。 絵画のディーラーをし、いくつもの画廊を経営している社長なら、Arielがどれほどの画家か分かっているはず。 それを期待して必死で訴えたのだけど、社長は眉間に深いシワを刻み黙り込んでしまった。そして、薫さんまで、難しい顔をしてため息を付く。 「希穂ちゃん、本当に、あのArielが矢城ギャラリーで個展を開くの?」 「はい、Ariel本人の強い希望だと聞きました」 「そう……」 不穏な空気が流れ、なんだかヤバい雰囲気。Arielの名前を出したのはマズかったのかと焦り始めた時だった。背後でドアが開く音がして、柔らかな低音ボイスが聞こえてくる。 「いいんじゃないですか? Arielの個展を開くことは春華堂にとってもいいアピールになる」 なんと、賛成してくれる人が現れたんだ。もう嬉しくて喜び勇んで振り向くとそこに居たのは、スラリと背の高い男性。 だが、その男性と目が合った瞬間、私の意識は一瞬にして時を駆け、遠い記憶の中に引き戻されていく……まだ幼かった十三歳の少女だったあの頃に…… 目に浮かぶのは、開け放たれた窓から吹き込んでくる風に柔らかそうなダークブラウンの髪を揺らしていた大きな背中。十年前の夏、突然現れ、私の心を奪ったまま消えてしまった――初恋の人の姿。
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2791人が本棚に入れています
本棚に追加