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それから零士先生の説得は三十分ほど続いたが、社長が首を縦に振ることはなく、苛立ちを見せ始めた零士先生がヒートアップして語気を荒げる。
「そんなにArielを毛嫌いすることはないでしょ?」
「よくそんなことが言えるな? お前はアイツが憎くないのか?」
「何度同じことを言わせるつもりですか? Arielは……」
「もういい! それ以上言うな!」
眉を吊り上げ怒鳴った社長が部屋を出て行くと零士先生が「やれやれ」と呟き、振り返って私に視線を向けた。ガッツリ目が合いまた心臓が騒ぎ出すが、必死で平静を装いペコリと頭を下げる。
「矢城ギャラリーのために、有難う御座いました」
「いや、みっともないとこを見せてしまったな……でも、俺はまだ諦めていないからな」
「……えっ?」
社長のあの様子では、Arielの個展はもう絶望的だろうと諦めていたから、零士先生の言葉は意外だった。
「Arielに関しては、色々誤解があってね」
「誤解?」
でも、零士先生はその誤解がなんなのかは教えてはくれず、訝し気な表情で薫さんをチラリと見る。
「しかし、なんで急に矢城ギャラリーを買い取ることになったんだ? 俺はそんな話し全く聞いてなかったが……?」
「あ、あぁ……ごめんなさい。常務がミラノのオークションに出張中に急に決まっちゃって……」
薫さんバツが悪そうに苦笑いを浮かべ事情を説明すると零士先生が大きなため息を付く。
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