2790人が本棚に入れています
本棚に追加
/237ページ
「ったく……お前は俺の秘書なんだから、まず俺に相談するのが筋だろ? 親父に話す前に俺に相談してくれていたら、こんな面倒なことにならずに済んだのに……」
えぇっ! 薫さんが、零士先生の秘書?
「薫さん、事務員さんじゃなかったんですか?」
思わず大声を上げると薫さんは「半年前まではね。でも今は常務秘書よ」ってニッコリ笑う。
意外な展開に目をパチクリさせていたら、零士先生がArielの個展の件は自分が預かるから心配いらないと頼もしいことを言ってくれる。
「春華堂の利益になるのは間違いないからな」
「はあ……」
どんな形でも、矢城ギャラリーでArielの個展が開けるのなら有難い。けれど、この時点でも私に気付かない零士先生にため息が漏れた。
こうなったら、私があの時の中学生だということは知られない方がいい。
十年前と変わらない涼し気な瞳を見てそう思った。それは、もう過去は振り返らないと決めた私のちっぽけなプライド。
その後、私と薫さんは春華堂のビルを出て、海外の高級ブランドショップのショーウィンドウから漏れる明かりに照らされながら歩道をゆっくり歩いていた。
「Arielか……なんか、ややこしいことになっちゃったわね」
俯き気味の薫さんが困り顔でそう呟くから、春華堂の社長がどうしてあんなにArielを毛嫌いするのかを訊ねてみた。
「問題? 大ありよ。Arielは社長の別れた奥さんなんだもの……」
「はぁ? Arielが春華堂の社長の元奥さん?」
最初のコメントを投稿しよう!