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――夫と子供……あぁ、そうか。Arielが社長の元奥さんなら、零士先生のお母さんってことになる。だから社長は零士先生に"お前はアイツが憎くないのか?"って聞いたんだ。
事情を知り納得したけど、そうなると新たな疑問が湧いてくる。
「でも、社長の言っていることが事実だとしたら、れぃ……あ、いや、常務は自分を捨てて若い男と逃げた母親をどうして庇うようなことを?」
私の質問に薫さんは小さく首を振り「さぁね……それは、常務に聞かないと分からないわ」と苦笑する。
「とにかく、常務が任せてくれと言ってるんだから、暫くこの件は保留ってことね。父さんには私から伝えておくから、希穂ちゃんは矢城ギャラリーのことお願いね」
「はい……」
それからすぐ薫さんと別れ、自宅に帰って楽しみにしていた連ドラを観始めたのだけど、ストーリーが全く頭に入ってこない。
その原因は――零士先生……私のことを全く覚えていなかった忌々しい男の顔が目に浮かび、どうにも落ち着かない。
もう忘れるって決めたのに、どうして今頃になって私の前に現れるのよ。それも、転職を勧められた会社の常務だなんて……やっぱり、春華堂に就職するのはやめよう。
そう心に決めた時、バッグの中のスマホが鳴り出した。電話の相手は新太さんで、一週間後に日本に帰ると言う。
『日本の化粧品会社が俺の作品をポスターにって話しがあってね。CMでも使いたいと言ってくれてるから、その打ち合わせで帰ることになったんだよ』
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