運命のイタズラ

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それから矢城ギャラリーに戻り、待っていてくれた輝樹君と環ちゃんに事情を説明すると、ふたりは最悪な事態を免れて良かったと安堵していた。 確かに、危機一髪、騙されていたことに気付いて処女を奪われずに済んだのは良かったけど、幸せの絶頂から奈落の底に突き落とされた私は立ち直れず、どんより沈んでいた。 輝樹君の話しによると、新太さんたちの会話に出てきた"笹本さん"というのは、アメリカでは有名な日系企業の社長で、その笹本という人の娘が新太さんの絵のファンだったことから新太さんのスポンサーになっていたそうだ。 きっと、その娘さんが新太さんの本命で、婚約者なんだろう。 仕事が終わって自室に戻ると大きなため息を付いてベッドに顔を埋める。と、静かな部屋にスマホの着信音が響き渡った。 「……新太さん」 ディスプレイに表示された名前を見て心がざわつく。彼はまだ、私が真実を知ったことを知らない。約束の時間になっても私が来ないから電話をしてきたんだろう。 電話に出て文句のひとつも言ってやりたいという気持ちはあったけど、今は新太さんの声を聞くのもイヤ。だから呼び出し音が止むとメッセージアプリを開き『婚約者の方とお幸せに』と送った。 そんなこと、これっぽっちも思ってないのに…… するとすぐに新太さんから『どういうことだ?』って返信がきたが、それを無視し、布団を被って大声で叫ぶ。 「男はみんな嘘つきだ! もう男の言葉なんて信じない!」
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