優しい嘘

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ただ一言、すまなかったと謝ってくれれば、それで良かったのに……新太さんにとって私は、ただの遊びの女。私が泣こうが怒ろうが、彼にとってはどうでもいいことだったんだ。 悲しみ一色だった心に怒りの感情が芽生え、目の前の新太さんを睨み付けると彼と話していた男性が困惑気味に眉を寄せる。 「この女性と何かあったの?」 「いえいえ、彼女は僕の熱心なファンでね。ちょっと優しくしたら勘違いしたみたいで……こんな所まで追いかけてくるなんて、まるでストーカーですよ」 はぁ? 私がストーカーですって? 平然と笑っている新太さんに完全に理性がぶっ飛び、我を忘れた私は右腕を大きく振り上げた。でもその時、誰かに肩を掴まれそのまま凄い力で引っ張られる。気付けば、背の高い男性に後ろから抱き締められる形になり、同時に爽やかな香りが私を包む。 この香りは……まさか…… 有り得ない想像をした直後、頭上から聞こえてきたのは、聞き覚えのある低く通る声――零士先生の声だった。 「俺のフィアンセをストーカー呼ばわりとは聞き捨てならないな。その発言は撤回してくれ」 フィアンセって……何それ? 新太さんに対する怒りはどこへやら。驚きで言葉を失う。でも、私より驚いていたのは新太さんだった。 「希穂が……零士の婚約者?」 新太さんが零士先生を呼び捨てにしたことでふたりが知り合いだったということが分かり、またまたビックリ。そして零士先生は更にとんでもない発言をする。 「あぁ、そうだ。まだ正式に婚約はしてないが、俺は彼女と結婚するつもりだ」 「けっ、結婚?」
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