優しい嘘

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「もぉ~あのお喋り親子め!」と唇を噛むが、確かに呆気に取られた新太さんの顔を見てスッキリしたのは事実。これで綺麗サッパリ新太さんのこと忘れられそうだ。 「でも、あんな嘘を付いて大丈夫だったんですか? れぃ……あ、常務は新太さんとお知り合いのようですし、あんな嘘、すぐバレちゃいますよ」 零士先生のことが心配になり聞いたのに、彼は余裕の表情でフフンと笑う。 「バレたところでどうってことないさ。破談になったって言えば済むことだからな」 「あぁ……なるほど」 納得して頷くと零士先生が急に真顔になり、顔を近づけてくる。 わわっ! な、何……? 咄嗟に後ろにさがり、零士先生をかわそうとしたが、ジリジリと迫ってくる彼に壁際まで追い詰められ、とうとう逃げ場を失ってしまった。 零士先生のことなんかもうなんとも想ってないはずなのに、十年前と変わらぬ妖艶な瞳に見つめられると意に反して胸が高鳴り、呼吸が荒くなる。 そして、いわゆる壁ドンってヤツで自由を奪われ「――嘘を本当にする手もある」なんて意味深なことを言うから、今度は頬が熱く火照って視線が泳ぐ。 動揺しているのがバレそうで下を向くも、彼は更に強く私の体を壁に押し付け、耳元で甘く囁く。 「なんなら、お前のバージン、俺が貰ってやってもいいぞ」 「ひぃっ……」 プルプルと首を振り「結構です!」と叫んで零士先生の胸を力一杯押すと彼が片方の口角を上げ、私の頭をクシャリと撫でた。 「お前、初心で可愛いな」 その言葉を聞いた瞬間、十年前のことが思い出され胸に鈍い痛みが走る。
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