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その気もないのに、気のある素振りをするところ、昔と全然変わってない。幼かった私はコロッと騙されてしまったけど、もうその手には乗らないんだからっ!
「遠慮します!」
ありったけの大声で叫び、零士先生の胸に頭突きをくらわしてやった。
「痛って……助けてやったのに、その態度はなんだ?」
「助けてくれだなんて頼んだ覚えはありません。それに、私は男の人とそういうことはしないと決めたんです」
「ほーっ、じゃあ、一生、処女でいいと?」
「ええ、そうです。一生、処女を守り通して天寿を全うします!」
大真面目で宣言すると零士先生は何が可笑しいのか、ケラケラ笑い出す。
「お前、面白いヤツだな。気に入った。面接は合格だ」
「面接?」
「薫に、お前をギャラリーのカフェで雇ってやってくれって頼まれてたんだよ。こっちも後任の社員を探していたから丁度いい」
ちょっ、全然良くないんだけど!
まだ矢城ギャラリーの仕事が残っているからと、やんわり断るが、零士先生には私の気持ちは伝わらなかったようで……
「矢城ギャラリーに入っている展示予約は、後二ヶ月ちょっとで全て終了する。その後の仕事は決まってないんだろ?」
確かに次の仕事は決まってない。でも、零士先生がいる春華堂には行きたくないから断ろうと決めていたのに……零士先生が近くにいたら、思い出したくない過去をイヤでも思い出してしまうもの。
だから、今度はキッパリ就職は辞退しますと言ったのだけど、残念そうにため息を付いた零士先生が驚きの言葉を口にする。
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