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「実はね、その後、色々あって……」
パーティーでの一件を話すと輝樹君は「へぇ~春華堂の常務って優しいんだね」なんて言うから、思わず「どこが?」って低い声で聞き返してしまった。
「だって、それほど親しくない希穂ちゃんの為に婚約者だなんて嘘まで付いてくれたんでしょ? それで希穂ちゃんも吹っ切れたワケだし」
「う、うん……まぁ、そう言われれば、そうだけど……」
「常務の優しい嘘だよ」
優しい嘘……?
十年前、零士先生が付いた嘘を信じ、何年も彼を待ち続けていた私にとってそれは、なんとも言えない複雑な一言だった。
肯定も否定もできず唇を噛むと輝樹君が何かを思い出したように「あっ!」と声を上げる。
「そういうば……春華堂の常務も、僕や新太先輩と同じ大学だったはずだよ」
「えっ? そうなの?」
「うん、同窓会に行った時、友達がそんなこと言ってたような気がする。新太先輩と同学年じゃないかな?」
「新太さんと常務が同い年?」
そうか。私が十三歳だった時、零士先生は二十二歳だった。ということは、私より九歳年上の新太さんと同い年になるんだ。
あのふたりがお互いを呼び捨てにしてたから知り合いなんだろうと思っていたけど、そういう関係だったのか……輝樹君に言われるまでふたりが同い年だって全然気付かなかった。
ひとり納得して「なるほど……」と呟くと目的地である春華堂の社宅。真新しい高層マンションが見えてきた。
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