優しい嘘

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「希穂ちゃん、社宅にしては、立派なマンションだね」 「うん、さすが業界ナンバーワンの老舗企業。矢城ギャラリーとは大違いだね」 なんて感心しつつ、薫さんから送られてきたメールを確認してオートロックを解除するとエントランスにある管理人室で部屋の鍵を受け取り、新居に荷物を運び入れた。 「じゃあ、僕はこれで……そろそろバイトに戻ろないと……」 「あぁ~ごめんね。落ち着いたらお礼にご飯おごるから」 「そんなの気にしなくていいよ。それより、近い内に春華堂のカフェに顔出すから仕事頑張ってね」 輝樹君ってホントいい人だなぁ~って思いながら笑顔で彼を見送ったのだけど、ガランとした部屋でひとりになると矢城ギャラリーのオンボロ部屋が無性に恋しくなる。 住んでいた時は、もっと綺麗な部屋に住みたいって思っていたのにね。 しんみりした気分で薫さんに引っ越しを終えたとメッセージを送り、輝樹君が綺麗に畳んで部屋の隅に置いてくれた布団にダイブして大きなため息を付く。 月曜から春華堂の社員か……頑張らないとな…… ――週明けの月曜日。 緊張気味に春華堂に初出勤した私は、画材店の入り口で待ってくれていた薫さんと共にロッカールームに向かう。 カフェのユニホームはシックな黒のカーマベストに淡いピンクのブラウス。小さめの蝶ネクタイが可愛い。矢城ギャラリーの時は私服だったから、制服というのがなんだか新鮮でテンションが上がる。 着替えを済ませて二階に行くと、オープンスペースにあるカフェカウンターの前にギャラリーが併設されていて、お茶をしながら絵画を鑑賞できるようになっていた。
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