優しい嘘

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ギャラリーはそれほど広くないが、オークションで競り落とされた有名な画家の作品がズラリと並んでいる。 わぁ~凄い。これだけの作品をキープできるってことは、相当な資金がないと無理だよね。いったいいくらで競り落としたんだろう? 下世話なことを考えながら絵画に見惚れていると薫さんが私を手招きし、カフェのカウンターの中で微笑んでいる黒髪をアップにした涼やかな瞳の女性を紹介してくれた。 「希穂ちゃん、この人がカフェの責任者、飯島(いいじま)綾乃(あやの)さんよ。春華堂に来るまでは洋菓子店でパティシエをしていたの。だから彼女の作るスイーツは絶品。凄く評判がいいのよ」 「わぁ~パティシエさんですかー!」 興奮して目を輝かせると「少し試食してみる?」そう言った飯島さんが、カウンターの上に数種類のフルーツタルトを並べてくれた。 マジ? 職場でスイーツを試食できるなんて最高じゃない。いい職場だなぁ~ どれから食べようかと迷っていたら、薫さんが私の頭を小突き、強い口調で釘をさす。 「食べてばかりいないで仕事もちゃんとするのよ」 「も、もちろん! 分かってます」 薫さんの説明では、カフェの調理は飯島さんが全てやってくれるので、私はウェートレスをしつつ、お客様から質問を受けた時に絵画の説明をするってのが仕事らしい。 「でも、希穂ちゃんはあくまでもカフェのスタッフ。営業じゃないんだから無理に絵を売ろうなんて考えなくていいのよ」 「えっ……そうなんですか?」
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