優しい嘘

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「もちろん購入したいって方が居れば販売もするけど、このギャラリーはゆったりとした空間で絵画を気軽に楽しんでもらいたいというコンセプトで常務がオープンしたギャラリーだから……」 「常務が?」 「そう、美術館や画廊に行かない人でも、春華堂で文具を買ったついでにフラッと立ち寄ってもらって、少しでも絵に興味を持ってくれる人が増えればいいなって……ね」 零士先生の思いを熱く語る薫さんを見ていると、なんだろう……私が知っているいつもの薫さんじゃないような気がして…… 「仕事をしてる時の薫さんって、普段と違いますね。なんか、生き生きしてる」 「ヤダ、希穂ちゃんたら何言ってんの? 仕事とプライベートは別。そんなの当り前じゃない」 テンション高く私の言葉を笑い飛ばした薫さんが唐突にファイルを差し出してくる。 「ギャラリーに展示してある絵画の資料よ。よく読んでちゃんと説明できるようにしておいてね」 そう言うと私の背中を軽くポンと叩き、ヒールの後を響かせ階段を下りて行く。すると今まで黙っていた飯島さんがボソッと呟いた。 「確かに、最近の矢城さんは生き生きしてるわね……」 「えっ?」 「経理事務から突然常務秘書に大抜擢されたんだもの。ヤル気が出て当然よね」 「大抜擢……ですか?」 カウンター越しに飯島さんに視線を向けると彼女が微妙な笑みを浮かべ、小さく頷く。 「常務と矢城さんは特別な関係だから」 「と、特別な関係って、まさか……」
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