優しい嘘

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心臓の音がドクンと大きく響いたと思ったら、胸がギュッと締め付けられる。 零士先生と薫さんが? そんな…… 思いもよらぬ展開に動揺しまくりだ。そんな私を見て、飯島さんがクスリと笑った。 「もしかして、変な想像してない? 私が特別な関係って言ったのは、男と女って意味じゃないわよ。あのふたりは中学の同級生。幼馴染みなのよ」 「れ……あ、常務と薫さんは同級生なんですか?」 ……じゃあ、薫さんも三十二歳? 環ちゃんが高校生だからもっと年上なんだと思ってた。てか、薫さん、十六歳の時に環ちゃんを産んだの? それに、零士先生と幼馴染みだったなんて……一年もあの親子の傍に居たのに、私、なんにも知らなかった。 驚きで固まっていると飯島さんがカウンターから身を乗り出し、上目遣いで私を見る。 「でもね、宇都宮さんと同じこと考えている人は社内に大勢いるわ。中にはもっと大胆なことを言ってる人もいるし……」 大胆なことってなんだろうと思い訊ねてみたけど、飯島さんは言葉を濁し教えてくれない。その代わり「常務は責任感が強い人だから……」って独り言のように呟く。 そうなると余計気になってしまい、貰った資料を読んでいても全く内容が頭に入ってこない。 あれこれ想像を巡らせていたら、年配の品のいいご婦人がギャラリーにやって来てキョロキョロとギャラリー内を見渡し「あぁっ……」と声を上げる。 彼女が食い入るように眺めていたのは、F6サイズの油彩で、五十年前に描かれた裸婦画だ。
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