果たされた約束

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「ったく、借金が好きなヤツだな。差額に関しては、怪しいと思いながら確認しなかった俺のミスだ。だから俺が払う」 「常務が?」 実は薫さんも婦人を疑っていて、ちゃんと確認した方がいいと零士先生に散々言っていたそうだ。にも関わらず、零士先生が確認しなかった理由(ワケ)は―― 「必死で訴えるお前を見ていたら、なんとなく……な。そうしてやりたいって思ったんだよ」 「えっ……」 その言葉を聞いた時、零士先生の優しさを感じて胸の奥がジンと熱くなった。でも、次に彼が発した言葉でその温もりは一気に吹っ飛ぶ。 「で、次は百万円の件だが、そっちの方はちゃんと払ってくれよ」 やっぱ、そうなるんだ…… 「じゃあ、明日、仕事が終わったら……いいな?」 「あ、明日ですか? いきなり明日だなんて……私、まだ心の準備が……」 「心の準備? そんなモノ必要ないだろ?」 何言ってんのよ~初めてなんだよ。心の準備は必要でしょ? 女心を全く理解していない零士先生に呆れつつ、もう少し時間が欲しいとお願いしてみるが「ダメだ」の一言ではねのけられる。 本当はもっと抵抗したかったけど、婦人の一件で迷惑を掛けたからそれ以上強く出ることができず、結局、明日の仕事終わりに会うことになってしまった。 そうなったらもう、頭の中は妄想でいっぱい。興奮して暴れまくる心臓を静めるのに必死で、せっかくご馳走になった大トロも全然味が分からない。 でも、なんだろう……このドキドキは、以前のドキドキとちょっと違うような気がする。
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