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当時が再現されたような光景に胸が締め付けられ、意に反して涙が溢れてくる。
自分で自分の気持ちが制御できず、激しく動揺する心。そしてその乱れる心に何度も問い掛け、気付いたこと――
私の中で零士先生に対する気持に決着がついていたら、どんなに自分に非があり、追い詰められたとしてもここに来ることはなかった。つまり私はまだ心のどこかで零士先生を求めている……
――が、どうしてもそれを認めたくなくて、傾きかけた気持ちを必死で引き戻す。
違う! そんなはずない! 私は零士先生のことなんて好きじゃない。やっぱりこんなの間違ってる。ちゃんと断らなきゃ……
無理やりそう否定したのは、おそらく自己防衛。私は再び傷付くことを恐れていたんだ。あんな辛い想いはもうしたくないと逃げていた。
ひとつ大きな深呼吸をすると零士先生を見上げ、震える声で懇願する。
「お願いですから支払い方法を変更してください」
「はぁ? 今更何言ってる?」
「すみません。でも、こんなことが会社にバレたら常務も困るんじゃないですか?」
脅すような物言いが気に入らなかったのか、零士先生は私を睨むと乱暴に腕を掴み歩き出した。
「ど、どこに行くんですか?」
「いいから黙って着いて来い」
零士先生が向かったのは、事務所奥にある階段。それを一気に五階まで駆け上がり、私が住んでいた部屋の前で立ち止まる。
「ほら、突っ立ってないで入れ」
ドアを開けた零士先生に背中を押され、久しぶりに足を踏み入れた部屋は以前と様子が違っていた。
「これは……」
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