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ガランとした広いリビングの真ん中にイーゼルに乗った真っ新な大きなキャンバスが見える。その横にある私が使っていたパソコンデスクの上には、綺麗に並べられた油絵の具と十数本の絵筆。
他にも使いこまれたパレットやペインティングナイフ。木炭、練消しゴムなど、油絵を描く為の道具一式が揃っている。
アトリエのように一新された室内を眺め呆然としていると隣に居た零士先生がスーツのジャケットを脱ぎ、ソレを近くにあったチェストの上に放り投げた。
「さぁ、始めるか……」
えっ? 始めるって……まさか、ここでスる気? 確かにここには、私が引っ越すまで使っていたベットがあるけど、なんでここなの?
ネクタイのノットに差し込んだ指を左右に動かし迫ってくる零士先生から逃げるように後退ると堪らず大声を張り上げた。
「ダ、ダメです! 借金を返す為にエッチするなんて……そんなことできません!」
「エッチ?」
「そそそ、そうです。これは完全にセクハラです!」
すると今度は零士先生の動きが止まり、間の抜けた顔で私を凝視する。が、すぐにプッと吹き出し笑い出したんだ。しかもその笑いはなかなか止まらず、とうとうお腹を抱えてうずくまってしまった。
「アハハハ……ひぃ……腹痛てぇ~。なぁ、お前、なんか勘違いしてないか?」
「勘違い?」
「あぁ、そうだ。誰がセックスしろだなんて言った?」
「だって、借金は体で返せって……常務、そう言ったじゃないですかぁ!」
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