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声を荒らげる零士先生を見て、これは完全に地雷を踏んでしまったなと焦り、慌てて話題を変える。
「あぁ~それと、薫さんも同級生なんですよね?」
すると険しかった零士先生の表情が一変。目を細めて嬉しそうに話し出す。
「薫とは、中学の時からの付き合いだからな。もう二十年以上になるか……」
すっかり機嫌が直った彼に気を良くした私は、調子に乗ってつい突っ込んだ質問をしてしまった。
「薫さんって、十六歳の時に環ちゃんを産んだんですよね?」
「んっ? あぁ……そうだな」
「そんな若い時に結婚して出産するなんて薫さんって凄いなぁ~」
現在、薫さんは独身。本当はお相手の男性がどんな人だったのか聞きたかったけど、離婚した人のことを聞くのはさすがに気が引ける。だから遠回しにそれとなく探りを入れていたら、零士先生が思いもよらぬ言葉を口にした。
「薫は離婚なんかしてないぞ」
「えっ?」
「結婚していないのに離婚なんてできないだろ?」
てっきり環ちゃんを産んだ後に離婚したんだと思っていた……じゃあ、薫さんは未婚で環ちゃんを産んだってこと?
「どうして結婚しなかったんですか?」
「それは……色々事情があってな。だが、お前には関係のないことだ」
零士先生はそう言って強引に話しを終わらせた。その表情は寂し気で、さっきまでの笑顔はもうない。
お前には関係ないか……そうだよね。私には関係ないことだ。でも、そう言われると胸の奥がチクリと痛む。
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