甘美な視線

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――数日後…… 初めて絵のモデルをした日の翌日、零士先生が急にパリに出張することになり、彼が戻るまでモデルはお休みになった。 それは私にとって幸いだったのかもしれない。冷却期間をおくことで少し気持ちが落ち着いてきたから。 「飯島さん、お先です」 ランチは飯島さんと交代で行くことになっていた。先にランチに行っていた私が戻ると飯島さんはカウンターの上にcloseの札を立て「じゃあ、宜しく」と言って階段を下りて行く。 元々、ギャラリーに来るお客様はそれほど多くはない。カフェを利用する人もスイーツ目当ての若いOLさんが大半だから、平日の昼過ぎは割と暇だ。 静かなギャラリーでひとり絵画を眺めていると階段の方からヒールの音が響いてくる。お客様だと思い慌てて振り返ったのだけど、その足音の主は薫さんだった。 「どう? 少しは慣れた?」 優しい笑顔の薫さんに私も笑顔で「はい」と返したが、彼女の顔に零士先生の顔がダブって落ち着いてきた心が再びザワつく。そんな気持ちを必死で制し「裸婦画の件では迷惑を掛けてすみませんでした」と頭を下げる。 「あぁ……あれね。確かに大きなミスだけど、素人の希穂ちゃんを責めるワケにはいかないわ。婦人に裸婦画を売るって最終決定をしたのは常務だもの。あれは、常務のミス。 でも、仕事には一切の妥協を許さず、情を持ち込まないことで有名な常務が、どうしてあんな決断をしたのか……未だに謎だわね」 「えっ……常務ってそんなに厳しい人なんですか?」
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