甘美な視線

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薫さんは、零士先生がどれほど会社の利益を重視し、仕事に厳しい人かを説明してくれたけど、私にはいまいちピンとこなかった。 だって、裸婦画の件でも、零士先生は私があまりにも一生懸命お願いするから、なんとなくそうしてやりたかったって言ってたし、百万円もの借金をモデルをすることでチャラにしてくれた。 だからそんな風には見えないと言うと、薫さんは苦笑いをして首を振る。 「社員の間では、父親の社長は感情で動く人だけど、常務はいつも冷静で正しい判断ができる人だって思われていたの。だから今回の裸婦画の件はみんな驚いてあれこれ噂してるわ」 「噂って、どんな噂ですか?」 「春華堂の次の社長候補はふたりいてね。常務と社長の弟の専務。今までは若くて仕事ができる常務が一歩リードしていたけど、今回のことで分からなくなったって」 「あ……」 私は会社に損害を与えただけでなく、零士先生の信用も下げてしまったんだ。なのに零士先生はそんなこと一言も言わず、自分のミスだって…… 「私、常務に迷惑掛けてしまったんですね」 そこまで大事になっているとは知らず、自分のことで精一杯だった自分が恥ずかしくて堪らない。責任を感じてどんよりへこんでいたのだけど、なぜか薫さんは笑顔だ。 「まぁね、今回の件はマズかった……でも、心配はいらないわ。常務が社長になるのは間違いないことだから」 「えっ、そうなのですか?」 「そうよ。常務が後継者に決定したのは、希穂ちゃん、あなたのお陰なのよ」 「私のお陰?」
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