甘美な視線

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意味が分からず眉を寄せると薫さんは辺りを気にしつつ、含み笑いで言う。 「実はね、常務は父親の跡を継いで春華堂の社長になることに全く興味がなかったの。でも、希穂ちゃんがArielの個展を開きたいって言ってくれたお陰で常務の気が変わったのよ」 なぜ私がのArielの個展を開きたいと言ったことが、零士先生の気持ちを変えることになったのか。それは―― ――零士先生は元々経営者になるより、画家になることを望んでいたそうだ。だから大学を卒業するとすぐフランスに留学して引き続き絵を学んでいた。が、社長はどうしても零士先生を跡継ぎにしたくて無理やり帰国させたらしい。 「じゃあ、常務は春華堂で働くつもりはなかったってことですか?」 「そうよ。社長に言われて仕方なく春華堂に入ったんだけど、彼は中途半端が嫌いな人だから、たとえ本意じゃなくても入社したからには手を抜くワケにはいかない。そう思ったんでしょうね。 精力的に世界中を駆け回り、社長が望む一流の絵画を競り落としてきた。そんな姿を見た社長はこれで安心して常務に春華堂を任せられると喜んでいたんだけど、半年ほど前だったかしら…… 常務が突然、会社を辞めて画家になる。絵の世界で生きていきたいって言い出したのよ。やっぱり夢を諦められなかったのね」 当然、社長は激怒してその申し出を却下。その後、何度も話し合いを重ねたがお互い譲らず、主張は平行線を辿った。
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