甘美な視線

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「そんな時よ。希穂ちゃんが矢城ギャラリーでArielの個展を開いて欲しいって言ってきたのは……ここからの流れは希穂ちゃんも知ってるわよね」 「はい、社長には断られたけど、常務が個展を開くことを賛成してくれて……」 「あの後、社長と常務はもう一度、長い話し合いをしたそうよ。そこで社長が折れて個展を開くことに同意したの。でも、それには条件があってね……」 薫さんはまた周りを気にしながら、更に私との距離を縮めてくる。 「常務が画家になるのを諦めて春華堂の社長になるなら、Arielの個展を開いてもいい。常務はそう社長に言われたそうよ」 「えっ……じゃあ、常務はArielの個展を開く為に画家になるのを諦めたんですか?」 零士先生が絶対に譲れない夢を諦めてまでArielの個展を開こうとしたのは、やっぱりArielが零士先生のお母さんだから? 母親の願いを叶えてあげたいと思ったからなのかな? そのことを薫さんに確かめようとした時、タイミング悪くギャラリーにお客様がやって来てそれ以上、話しを聞くことができなかった。でも、そんな中途半端な状態ではモヤモヤ感がハンパなく、仕事に身が入らない。 飯島さんがランチから戻ってからもカウンターの丸椅子に座ってずっとそのことを考えていてた。すると飯島さんが「何かあったの?」と私の顔を覗き込んでくる。 「あ、いえ……」 慌てて背筋を伸ばすと飯島さんの視線が後ろに逸れ、真顔でペコリと頭を下げた。と思ったら、その直後、隣りの椅子に誰かがドカリと腰を下ろしたんだ。
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