甘美な視線

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「ブラック……濃いのを頼む」 その声に驚いて横を向くと少し疲れた表情の零士先生とガッツリ目が合った。しかし、久しぶりに零士先生の顔を見たからか、妙に意識してしまい慌てて視線を逸らす。 ヤダ……零士先生のこと、ちゃんと諦めたはずなのに、どうしてこんなにドキドキするの? 零士先生は、ついさっき出張から戻ったそうで、飯島さんが入れた濃いめのブラックコーヒーを一口飲むとしみじみと言う。 「飯島の入れてくれたコーヒーを飲むとホッとするな……癒されるよ」 「有難う御座います。それで、パリはどうでした?」 「あぁ、いつ行っても刺激的なとこだよ。毎回、パリに行くと帰国したくないって思うんだが、こうやって飯島の入れてくれたコーヒーを飲むと……不思議だな。日本に帰って来て良かったって思う」 女心を擽るような意味深な言葉に甘い声。飯島さんもまんざらでもないって顔をしていて、なんかな変な雰囲気。 そんな様子を見ていると、薫さんという彼女がいるのに、飯島さんにまで色目を使うなんてどういうこと?って怒りが込み上げてくる。 気があるそぶりを見せといて実はなんとも想ってないってパターンは昔のまま。零士先生の専売特許だ。きっと、この性格は一生、直らない。 改めてそう納得した時、膝の辺りにフワリと何かが乗っかったような気がして視線を下げるとスラリと長い指がゆっくり、でも確実に私の膝を撫でていた。 ギョッとして息が止まりそうになる。
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