天然記念物級の女

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七年もの長い間、そんなことに気付かず、ただひたすら零士先生を待ち続けていた私。気付くの遅過ぎだろ! って自分にツッコミを入れるが、全然笑えない。情けなくて涙が溢れてくる。 でも今思えば、そんなのとっくの昔に気付いていたような気がする。気付いていたけど、無理やり気付かないフリをしていたのかもしれない。 だって、好きだったから。何年経っても零士先生のことが大好きだったから。どうしても、もう一度、彼に会いたかった…… その後は絵筆を持つのも嫌になり、大学二年の時に絵画教室を辞めた。 実にバカバカしい話しだ。こんなめでたい女はそうは居ないだろう。だから私は零士先生を好きだった過去を記憶から葬り去り、思い出さないようにしていた。 なのに、環ちゃんが「希穂ちゃんの初恋の人ってどんな人?」なんて聞くから思いっきり思い出しちゃったじゃない。 「で、希穂ちゃん、新太(あらた)先生とは順調?」 「あ、あぁ……まあね」 環ちゃんが言う新太先生とは、一ヵ月前に付き合い出した私の彼氏のこと。二十三歳にして初めて出来た彼氏だ。 新太さんは今、若手の中では結構注目されているポップアートの画家で、ニューヨークでも個展を開くなど活躍している。 私には大好きな画家の先生がふたり居て、そのうちのひとりが新太さんだったから、彼がこの矢城ギャラリーで個展を開くと聞いた時は興奮してマジでチビリそうだった。 普段、作品の搬入に関わったりはしないのだけど、この時はなんだかんだと理由を付けて顔を出し、個展開催中もしょっちゅう覗きに行っていた。そして搬出に至っては、スタッフに混じって後片付けの手伝いをしたりして……
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