甘美な視線

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飯島さんからはカウンターがあるから見えないけど、会社でこんことするなんて、いったい何考えてんの? 零士先生を横目で睨み付け、さり気なくその手を払い除けた。そしてトイレに行ってくると飯島さんに声を掛けて速足で歩き出す。すると後ろから私を追うように足音が近付いてきた。 嫌な予感がする…… そう思い振り返ってみたら、密着するように零士先生が真後ろに立っていたので仰天してしまい、思わず奇声を発して大きく仰け反る。 「ひぃ~っ……な、なんですか? 付いて来ないで!」 「はぁ? なんだそれ?」 「いきなり足を触ったり、後を付けるようなことをして、そういうの迷惑ですからやめてください」 毅然とした態度でキッパリと言ったのだけど、零士先生は呆れ顔で廊下の先を指差した。 「バーカ! 煙草だよ。別にお前の後を付けてきたワケじゃない」 「へっ?」 見れば、確かにトイレの奥に小さな硝子張りの喫煙所がある。 「それと、足を触ったのはキュロットの裾が捲れていたから直してやったんだ。変な言いがかりはやめろ」 えっ、そうなの? 自意識過剰な勘違い連発で恥ずかしくなり、顔だけではなく耳まで真っ赤。そんな私に零士先生が「今夜、いいな?」と言って通り過ぎて行く。 あ、そうだ。またモデルしなきゃいけないんだ……でも、零士先生は絵を辞めてこの会社を継ぐと決めたんだよね。なのになぜ、絵を描くんだろう? トイレに入ろうと入り口のドアを開けたのだけど、やっぱりそのことが気になり硝子の向こうで煙草に火を点けている零士先生を暫く見つめていた。
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