甘美な視線

11/22

2791人が本棚に入れています
本棚に追加
/237ページ
「いつだったかしら、父さんが言ってたわ……事務所で煙草を吸うと希穂ちゃんが嫌がるから外で吸ってるって。煙草を吸ってても他人の煙は気になるの?」 うわっ……館長ったら、そんなどうでもいい話しを薫さんにしてたの? これは完全にアウトだって思ったが、それを認めてしまったら色々ややこしいことになりそうだったので、バレバレの嘘の上にバレバレ嘘を重ねる。 「いや~他の人が吸ってると自分も吸いたくなっちゃうから……あ、でも、もうやめるつもりです」 なんとか誤魔化し、この場は切り抜けられたけど、きっと薫さんは納得していないだろう。でも、彼女の薫さんにわざわざ怪しまれるようなことするなんて零士先生はいったい何考えてるの? それに、私に対してもそうだ。絵のモデルにしようと思ったのは、私が特別な存在だから……みたいなことを言っちゃって。あの言い方は知らない人が聞いたら絶対に誤解する。零士先生がそういう人だって知ってる私でも危うく勘違いしそうだったもの。 とにかく零士先生の甘い言葉には要注意だ。薫さんに疑われて泥沼の三角関係……なんて展開になったら堪らない。それには一刻も早く零士先生のことを忘れて何を言われても動じない強い意志が必要だ。 じゃないとまた傷付いて泣くことなる……だって、零士先生には私なんかよりずっと綺麗で仕事のできる薫さんが居るんだもん……どんなに頑張っても私が薫さんに勝てるはずないもの。
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2791人が本棚に入れています
本棚に追加