美沙子へ

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正直な所、この時点でもう少し向上心と出世欲を示していれば、確実に上の立場になれる事は解っていた。 しかし私は自身でブレーキをかけた。 社長に気に入られ様々な役職を兼任させられた挙げ句、潰れてしまう例をいくつか見ていた。 その人間を酷使しながら器量を計っているようだった。 人間は苦しい状況に立たされた時にようやく本性や才能を発揮する場合がある。 社長はそれを意図して行わせる。 現在の倍以上の仕事量と責任を持たされ、その際は収入も倍以上となろう。 小手先の技術でなく、やはり根性の据わった粘り強い者でなければ務まらない。 性根が真面目でない私には務まらないであろう。 一旦、表舞台から降りる事にした。 不祥事もいくつか起こしている身でもあるし、それを片付けてからで遅くはない。 慌てるタイミングではないと判断した。 しばらくは東京支店の実務と現場中心の仕事に徹するべきであろう。 現場を把握していないと人は付いてこない。 1年経過する頃には既存の工事体制を把握して動かし、別に新事業の体制を作った。 支店の社員とは軋轢も多少あったが、実力で押さえつけて文句を言わせないようにした。 支店とは言っても10名程の部隊である。 上司といえる立場の社員は2名いたが営業専属の為に、衝突は少なかった。 何より困難な現場は私自身が入り中心になって回した。 次第に若い社員は率先して動く私に付いてくるようになった。 結果、私2016年度の収益は支店として過去最高レベルの成績を残した。 年間で1億弱の経常利益であった。 私は来期への確かな手応えを感じていた。
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