美沙子へ

50/58
前へ
/58ページ
次へ
退院後、美沙子は実家に戻った。 以前は実家近くのアパートに一人住まいしていたらしいが、病気の性質上よほど安定した状態になるまでは一人暮らしは難しいであろう。 両親と暮らすのが妥当である。 仕事は回復次第で父親の経営する店舗で働くのだと聞いた。 約1ヶ月程、彼女は自宅で療養していた。 週に1度デイケアの訪問があったり、2週に1度病院に通う程度であったから、彼女は時間をもて余していた。 病み上がりの彼女の事を想い毎日LINEのトークを続け電話も頻繁にかけていた。 早く元気になって社会復帰してもらいたかったし会いたかった。 あまりにもスマホを手放さない娘の様子を見て、彼女の父親がよく小言を言っているのが電話越しに聞こえてくる事もあった。 私もちょっとやり過ぎているという自覚はあったのだが、療養期間は出来るだけ彼女の相手をしてあげたかった。 夜になり父親が就寝すると、毎日のようにテレフォンセックスがしたいと言い私もそれに応じていた。 彼女の喘ぎ声が案外大きくて、私は父親にバレるのを気にして何度も注意したが彼女自身はさほど気にしていないようであった。 こっちはなんだかヒヤヒヤして落ち着かず集中出来る筈もなく… 終始適当に演技してやり過ごした。 私自身は仕事で毎朝早朝に起きなければならず、実際に疲れも溜まる一方であった為、テレフォンセックスは週に一度にしようと提案すると彼女はしぶしぶこれを受けてくれた。 私は彼女の描く小説の世界観が好きだった。 多少荒削りであるが勢いで書き上げたスピード感や、景色の描写や人物の心情描写には共感する所が多くあった。 エロ要素は必要最低限にして欲しいと思っていたが、話してもあまり聞いて貰えなかったように思う。 作品の舞台やキャラクター設定等、素晴らしい発想力で展開していく物語が途中からエロ描写一色となり長いこと脱線してしまう所が彼女の作品の特徴であった。 それが私にはとても残念に思えてならなかった。 私はその作品のエロ描写以外の部分の話を彼女と話すのがとても好きだった。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加