美沙子へ

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11月になった。 数日前から…後何日とカウントダウンして数えていた、遂に美沙子と会える日がやって来た。 私は休日の早朝から新幹線に乗り京都駅に降り立った。 東京よりも快晴で行楽日和といった良い天気だった。 京都駅から奈良駅に向かう。 紅葉シーズンでとても混雑する駅構内を歩いてJR奈良線に乗った。 快速に乗ると約50分かけて奈良駅に到着した。 自宅から片道約4時間を要した。 移動費は往復で約3万円くらいか。 高鳴る胸の鼓動を感じながら駅のホームを降りる。 先程からLINEで連絡していて、美沙子も駅に到着していた。 さすがに初対面はかなり緊張する、改札の手前で美沙子から着信があって電話に出る。 そして二人は念願の逢瀬を果たした。 彼女は黒い上着にジーンズ、膝下には黒いレッグウォーマーを着け白いスニーカーを履いていた。 「…おしゃれ服は部屋に取りに行けてないから。」 彼女は聞かれる前にそう言った。 私は煙草が吸いたかった。 駐輪場の隅で一服しながらようやく彼女の表情を観察する… 『そっか、しかしすっぴんか…』 32才の独身女性が初デートにすっぴんで来るとは大した度胸である。 彼女はやせ形ですらりとした体形に顔は小さい。 薬のせいか少し肌が赤らんでいる。 化粧をしないのはそのせいか? それは聞かなかった。 少し幼い顔だちが可愛らしいと言える。 既に顔写真は交換していたから違和感は感じないがせっかく化粧映えしそうな顔だちなのにと思ってしまった。 私自身は彼女より一回り程年上で容姿はパッとしないタイプだし、スポーツウェアの上着にジーンズという格好だし、彼女こそ私を見てどう思うのだろうか。 駅から出てタクシーに乗り、運転手に近くの回転寿司に行ってくれる様に頼んだ。 数日前から食事は回転寿司に行こうと話していたからであった。 とあるチェーン店に入りノンアルコールのビールで乾杯した。 とりあえずは退院のお祝い。 そして今日初めて出会えた事を祝った。 一時間程で食事を終え、店を出た。 さて…もし彼女が乗り気でないもしくは、私とのセックスが無理というならば、観光して帰ろうと思っていた。 奈良公園では秋祭りのような催しを行っているようだ。 『…俺とホテル行くの?』 そう尋ねると、当然行くに決まっていると彼女は答えた。 とりあえず拒否はされなくて良かったのか。 徒歩で最寄りのホテルに手を繋いで向かった。
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