美沙子へ

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そして1ヶ月過ぎて再び美沙子に会いに行く日がやって来た。 相変わらず美沙子は私の事を申し訳ないと思える位に求めてくれていた。 決して女性として否定はしている訳ではないが、私の中で彼女に対する恋愛感情はずいぶん目減りしていた。 心は躍らなかった。 前回同様、旅費とデート代は全て私が持つし、その面は彼女に負担をかけない。 お金に余裕はないが、そうしなければならない。 当日も良く晴れていた。 前回よりぐっと冬に近づいたからか京都駅の人混みは少ない。 今回は近鉄奈良駅で待ち合わせした。 あ、美沙子だ。 駅ビルの周りで電話しながら姿を見つけた。 前回と同じ服装だった。 仕事を始めてわずかだし仕方ないと言えばそうなのだろう。 私も普段着にベンチコートを羽織った適当な服装である。 彼女はやっぱり顔もすっぴんで来た。 そんなに自分の素顔に自信があるとは思えないが、まあホテルに入ればすぐに入浴するし… ただ男性としては外出する際に多少の工夫はしてきて欲しいのが本音だろう。 こういう感覚は指摘されて直せるものではない。 だから言わない。 申し訳ないのだが彼女に欲情しにくいのはそういう点だった。 とりあえず昼も近いので、先に食事する事にした。 前回と同じイタリアンの店に入った。 彼女は終始ニコニコしていたし、他愛のない会話については楽しかった。 彼女の小説の話等もあるので話題は尽きない。 しかしまたそこで彼女に失望してしまう。 テーブルの上に置いたスマホでずっとRPGゲームを続けているのである。 一応会話は成立しているのだが、遠方から時間と旅費をかけて来ている私に対して失礼極まりない行動であった。 これには、後で遊んだら?と聞いたが 「私は複数の事が一緒に出来るから大丈夫だよ」 などと言うから、勝手にしろと思った。 そういえば電話中にアプリを開いたり、小説の続きを書いたりしているのは知っているが、それとはまた別であろう。 食事が運ばれて食べ始めると明らかに機嫌が悪くしている私の表情に気付いていない。 そして自分の皿を先に平らげると、まだゆっくり食べている私の鼻先で煙草に火を付ける始末であった。 私は喫煙者だがまだ食事している相手の前では殆ど吸わない。 自分がされたら嫌だと思うからである。 飲み会の席ならまた別であると思うが、せめて一言断ってから吸うのがマナーと私は思っている。
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