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夕刻にホテルを出る前から私は時計ばかり見ていた。
彼女はそれを指摘しては不満そうにしていた。
21時前には京都駅に戻っていないと本日中に帰るのが少し危うい。
明日は朝から仕事の予定が入っている。
もう私の頭は冷静に切り替わっている。
出来れば宿泊して帰りたいが、美沙子の両親も外泊は許さないであろうと思う。
「帰らないで。帰らないで。」
冗談なら許すが冗談に聞こえない。
子供なら許すが彼女は幼いだだっ子のような事を言う大人である。
精神面は成熟していないのだ。
本音は早く帰りたい。
これ以上会話もしたくなかった。
ホテルを出て歩く彼女は残念がりながらも機嫌は良いのか、あれこれ話しているが私にはあまり頭に入ってこない。
生返事で相槌だけついておく。
近鉄奈良駅まで歩き、美沙子を先にバスに乗せて見送った。
見送りながら思った。
残念ながら、彼女とは恋愛を続けていくつもりは既に無くなっていた。
自分の軽率さを反省した。
そもそも恋愛すら始まっていなかったのだと思う。
それなのに興味本意から身体の関係を持ったのが悪い。
関われば関わるほどに、後々お互いに深い傷を負う事になるだろうとしか思えなくなっていた。
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