美沙子へ

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ここからは明るい未来にしよう。 地味でもコツコツやろう。 多香子と付き合い出した事で少しずつ自身を取り戻した私は仕事に力を入れた。 私の担当する顧客からは次々と注文が増えてきた。 岡山県という土地で商売をするのは大変だと。 色々な意見も聞いていたが、実際そう感じた。 大阪や神戸と広島のちょうど中間にある地方都市で岡山市と倉敷市を中心とした県だ。 晴れの国と呼ばれ災害が少なく、農作物は実成りが良く物価も高くない。 住みやすい環境と言えた。 私自身は生まれが静岡県、育ちは宮城県。 社会に出てからは神奈川県、新潟県、一度宮城に戻るもその後、大阪府、岡山県と渡り歩いた。 仕事はほとんど営業職であったが、岡山が一番難しい土地だった。 半ば焼けくその開き直りで定住する覚悟が出てきてから、結果が出始めたのだった。 地域に根ざすという事はやはり歳月も要するようだった。 多香子は岡山にきて2人目の彼女だった。 しばらくは他愛のない日々が過ぎていった。 食事に出かけたり、ゲーセンで遊んでみたり。 お互いの仕事の話しをしたり。 しかし、正直いえば私自身はどんなに好きな女性とであったとしても3日間以上は一緒に過ごす自信がなかった。 素の自分自身を他人様に晒すのが恐いからである。 ちっぽけでつまらない地位も名誉もない。 金がないばかりか、借金まみれである自身… やはり貧困というものは人間性を卑屈にしていく。 本性は誰にも知られたくはない。 寝食を共にするなどすればいずれ全て知られてしまうであろう事が怖かった。 24歳の頃にしばらく付き合っていた彼女と2泊3日で旅行をした事はあったが、その頃は生活はさほど荒んでなかったにしてもそれが限界だった。 帰宅すると疲労で倒れるように眠った。
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