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「俺たちは、優しいあんたのために側にいるんだ。嬉しい時も、悲しい時も、来たる戦いの時もな」
いつの間にか緩やかな寝息を立てている透き通るほど白い少女のあどけなさ残る寝顔にそっと囁いた。
「鏡よ鏡よ鏡さん。この世で一番美しいのはだぁれ?」
大皿ほどの大きさの古い鏡に、淑女は語りかける。そこには映るはずの彼女の姿はない。
「そう、美しいのは──」
『貴女じゃない。この世で最も美しいのは、俺が愛しているのはッ──』
「いいえ!私よ!美貌も能力も権力も、全て兼ね備えた私が一番!そして貴方も私のものになるのよっ」
突然叫び声をあげた鏡を制する様に淑女は高笑いする。全てを手に入れ、支配する。彼女は異界の地より現れた魔女。気に入らないものは全て排除し、気に入ったものは全て自分のものにする。それが例え誰かの愛する人であっても…。
「貴方を縛り付けるあの女さえ消えれば、貴方は自ずと私のものになるのよ。さあ楽しみだねぇ」
美しい魔女は大きな瞳をギラつかせ、これから起こるであろう闘争を思い浮かべて下品に笑ってみせた。
その腕に抱える古ぼけた鏡にはもう何も写ってはいない。
決戦の時はすぐそこまで近づいていた。
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